『クロニクル』感想
日本での封切り直後にTwitterで気になる感想が散見され、観に行ってみようかと思ったが「首都圏限定・2週間のみ公開」により一旦はスルー。その後、好評により全国拡大・期間延長となりチャンスを得た。
家庭に問題を抱え、高校でもパッとしない生活を送るアンドリューが超能力を会得。それをきっかけに、距離のあったいとこのマットや学校の人気者スティーブと親密になり、3人で充実した時間を共有する日々が続くが……。
超能力は、手を触れずに物体を動かすテレキネシス。シンプルだ。この力を試してみる過程がすごく楽しそう。高校生の集団らしい悪ノリ感も大きい。孤独をやりすごしていた毎日がイベントに参加するような環境に移り変わっていく様子からは、アメリカの若者のリアルがうかがえる。明るい面だけでなく、母親が病気で薬代が要るのに傷害保険で酒を飲み働かない父親、みたいな暗い部分も生々しさのエッセンスだ。力によって深刻な事態が起こってしまうが、あくまで超能力は一種の象徴であって、思春期の普遍的な苦さが描かれている。
タイトルの『Chronicle』は「年代記」と訳されることが多いようだが、「出来事の連なりを記録する」という意味がある。
アンドリューは自分の生活を全てビデオカメラで撮影し始めた。この映画はその記録で、撮影された映像だけで出来上がっている。普通なら、鏡越しでないと本人の姿が見えないとか、3人で話しているのに画面には2人までしか入らないとか制限が出てくる。でも、テレキネシスがあるわけですよ。カメラを空中に浮かべられるため、むしろアングルの自由度は高い。とはいえ「カメラが存在しないシーンはない」というルールは絶対で、だからこそ「なるほどその突破口ならこの画が撮れる!」とアイデアを面白がっていた。
「疑似ドキュメンタリってフィクションである事を開き直ったほうがかえって迫真的」という指摘は興味深い。『トロール・ハンター』はレンタルするリストの底の方に沈んだままだな……。デ・パルマの『キャリー』も未見。いずれ必ず。
中村佑介が語るイラストレーターの仕事観 物を売ることと価値
アジアンカンフージェネレーションのジャケットや『謎解きはディナーのあとで』の表紙イラストで有名な中村佑介がネットラジオ「青春あるでひど」にゲスト出演した。イラストレーターという職業に対する考え方を語っている。
まずイラストレーターとはアーティストではない。個性なんか要らない。むしろ対極に位置する、デザイナーと似た職業である。クライアントの依頼に応じて、商品の魅力をよりよく伝えて広く売るのが仕事だと話していた。
翻訳家に近いかもしれない、という説明はなるほどと思った。音楽や小説を、絵の形に翻案してアピールする。
「商品を売る」話題から、後編では価値についての意見が交わされる。アナログと圧縮データとの情報量の差から生じる体験の質や、ビックリマンがヒットした理由など。
自分がアジカンのCDを買うようになった理由のメインは中村佑介のイラストなので絵に描いたような客なのだけど、それはさておいても、敬意を払うべきテーマだ。
「最近で良かったイラストは?」という質問に氏は『ファイアーエムブレム 覚醒』(コザキユースケ)と即答した。理由は、シリーズを初めてプレイしてエンディングまで遊んだから。どれだけ素晴らしい作品であろうと体験してもらわなければスタートラインにすら立てないわけで、興味を持たせるフックは必要だ。そしてシミュレーションRPGというジャンルはキャラクター育成と相性が良い。
似た事例で個人的には、「艦これ」の島風のキャラデザがあまりにもキャッチーで感動した。あの要素のまとめ方はすごい(ただ実際にプレイを始めたのはWizardryとの共通点を指摘する意見を読んでのこと)。
近頃は同人ボードゲームが盛り上がりを見せていて。つまりは自主制作なのだけど、有名ショップのランキング上位をキープしていたり、海外メーカーから翻訳されてリリースされたりする作品もある。多くはアマチュアの手によるもので見た目がピンキリなせいか、時折2chで「あれが売れているのはアートワークのおかげで……」みたいな文句が目に入る。手に取ってもらうためにデザインに注力する(相応のコストをかける)ことを軽視しているなと感じる。
誤解してもらいたくないのだが、販売数や売上はあくまで指標のひとつであって、作品それ自体の評価とは分けて考えるべき。とはいえ、関係者やファンの幸せのためには大事な尺度でもある。売れてないから単行本の続きは出ません、次回作はありません、というのは心苦しい。
さらに理想を言えば闇雲に売れさえすればいいということでもない。「マッチング」がキーワードだ。趣味嗜好は人それぞれで、合う合わないは個人の問題になってくる。歴史に残る名作だからといってあなたも気に入るとは限らないし、レビューが星ひとつでもあなたはハマるかもしれない。好みそうな人に届くかどうかが肝心で、その一助となるのが優れたデザインなのだろう。
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中村佑介が石黒正数と親交があると知ったときはすごく意外に思った。大学時代は密かにライバル視しあうような関係だったとか。『季刊エス』vol.32(2010年10月号)のシゴトバ探訪のコーナーでふたりの会話の様子が判る。
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イラストは単体でそのままパッケージになるのではなく他のデザイナーによる仕事(タイトルロゴとか印刷する紙の種類とか)を経て完成する。『MdN』11月号の特集がまさに「それはイラストの力か? デザインの力か? イラストのディレクション」で、雑誌表紙の制作過程が紹介されている。ちなみにイラストレーター赤りんごはデザイナーとしても活動中。
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「青春あるでひど」は科学をテーマにしたネットラジオで、しゃべりが気に入っていることもあり何年も前から毎回チェックしている。ここしばらくはゲストを迎えてのトークが主で、マンガ編集者や性転換経験者などから幅広く興味深い話を訊いている。
『楽園』WEB増刊 2013年7月20日〜8月31日更新一覧
- 7月20日 水谷フーカ『14歳の恋』
- 7月21日 竹宮ジン『Pieces』
- 7月22日 犬上すくね『100×200』
- 7月23日 宇仁田ゆみ『道草っぷり』
- 7月24日 平方イコルスン『相討ち』
- 7月25日 位置原光Z『処』
- 7月26日 panpanya『地獄』
- 7月27日 志摩時緒『あまあま』
- 7月28日 西UKO『コレクターズ』
- 7月30日 二宮ひかる『じゃなくて』
- 7月31日 かずまこを『ダーリング』
- 8月1日 竹田昼『リゾート行き』
- 8月2日 シギサワカヤ『あの頃 わたしたちは』
- 8月3日 kashmir『てるみな』
- 8月4日 水谷フーカ『14歳の恋』
- 8月6日 仙石寛子『花はニセモノ』
- 8月7日 TONO『ぎょらん』
- 8月8日 鬼龍駿河『乙女ループ』
- 8月9日 あさりよしとお『進め!なつのロケット団』
- 8月10日 二宮ひかる『遠足に行こう』
- 8月11日 シギサワカヤ『対岸の彼』
- 8月13日 大月悠祐子『相対性少女理論』
- 8月14日 武田春人『えみちゃんの妹』
- 8月15日 位置原光Z『もみかた』
- 8月16日 panpanya『パイナップルをご存じない』
- 8月17日 平方イコルスン『勿体』
- 8月18日 黒咲練導『休憩中』
- 8月20日 水谷フーカ『14歳の恋』
- 8月21日 シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』
- 8月22日 桑田乃梨子『明日も未解決』
- 8月23日 二宮ひかる『白』
- 8月24日 志摩時緒『すきな人ができました』
- 8月25日 西UKO『topaze』
- 8月26日 藤生『ケーキ』
- 8月27日 かずまこを『楽園まで、あと…』
- 8月28日 水谷フーカ『14歳の恋』
- 8月29日 坂田靖子『結婚許可証』
- 8月30日 シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』
- 8月31日 panpanya『池があらわれた話』
平方イコルスンから見る、時間・空間圧縮のコマ表現
独特の読み味を誇るショートショートの名手、平方イコルスン。非凡なのはその台詞回しのセンスだが、みっしりと詰め込まれたコマ割りも特徴のひとつである。
マンガはコマ割り、時間・空間の切り取り方と並べ方によって、読者に与える印象をコントロールすることもできる。限られたページをどう使っているのかに着目すると、細かいテクニックらしきものに気が付くこともあり面白い。
平方イコルスン『相討ち』に、"圧縮"の巧い使い方があったので解説する。
まずは作品を読んでもらいたい。『楽園』WEB増刊で公開されている(以下のリンク先へアクセス→ページ中ほど左端の「WEB増刊へGO!!!」をクリック→カレンダーが表示されるので7月24日を選択)
『楽園』WEB増刊 2013年3月15日〜4月21日更新一覧
- 3月15日 西UKO『helter-skelter』
- 3月16日 二宮ひかる『変』
- 3月17日 シギサワカヤ『エマージェンシー』
- 3月19日 宇仁田ゆみ『道草っぷり』
- 3月20日 panpanya『わからなかった思い出』
- 3月21日 位置原光Z『孕欲』
- 3月22日 平方イコルスン『みっとも』
- 3月23日 藤生『唐揚げと花巻』
- 3月24日 犬上すくね『100×200』
- 3月26日 シギサワカヤ『とても おなかが すきました』
- 3月27日 かずまこを『ダーリング』
- 3月28日 水谷フーカ『15歳の…恋?』
- 3月29日 志摩時緒『あまあま』
- 3月30日 鬼龍駿河『乙女ループ』
- 3月31日 桑田乃梨子『明日も未解決』
- 4月1日 竹田昼『桜とウソつき』
- 4月2日 シギサワカヤ『Hold me tight』
- 4月3日 林家志弦『思春期生命体ベガドラマCD4つの「いいね!」』
- 4月4日 あさりよしとお『進め!なつのロケット団』
- 4月5日 kashmir『てるみな』
- 4月6日 黒咲練導『車内』
- 4月7日 TONO『発泡』
- 4月8日 武田春人『バイリンがる』
- 4月9日 シギサワカヤ『SF』
- 4月10日 大月悠祐子『相対性少女理論』
- 4月11日 かずまこを『ダーリング』
- 4月12日 志摩時緒『すきな人ができました』
- 4月13日 西UKO『コレクターズ』
- 4月14日 竹宮ジン『トウカ スペクトル』
- 4月15日 仙石寛子『花はニセモノ』
- 4月16日 位置原光Z『彼氏』
- 4月17日 panpanya『魚の話』
- 4月18日 平方イコルスン『内』
- 4月19日 黒咲練導『それゆけ楽園ちゃん(仮)』
- 4月20日 シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』
- 4月21日 かずまこを『楽園まで、あと…』
ジャンプ電子版の第一歩
ついに牙城に動きあり。今回はあくまで45周年記念号1冊のみの販売だが、将来的な毎号配信が見えてきたか。
「ジャンプBOOKストア!」ほか、各電子書籍ストアで購入できる。eBookJapanのみ、他と比較して高画質な模様。
決済方法やビューアの試験も兼ねて、今回はhontoを利用してみた。
価格は300円(紙媒体は250円)。電子書籍の価格競争には危うさを感じる一面もあるため、付加価値を足してこの値段はむしろ歓迎したい。
デジタル特典の、鳥山明と尾田栄一郎による合作『CROSS EPOCH』(2007年4・5合併号掲載)の再録だけでも充分すぎるほどだ。こち亀の『ジャンプ40年史の旅』もうれしい。
通常連載の中から4作品はオールカラー版も収録されている。ただ個人的には、モノクロを完成型として描かれた作品に後から彩色されても蛇足にしか思えないので不要(選べるのなら問題ないが、集英社による電子版ジョジョのフルカラー彩色はふざけるなと言いたい。よりにもよってカラーリングが不定の作品に)。着色作業はもちろん外注なので、ある意味でアメコミっぽくはある。腕の良いスタジオが有名になったりするのかも。
鳥山明の新連載『銀河パトロール ジャコ』は期待通りの出来だった。「鳥山明っぽさ」が味わえればそれでいい。宇宙船が着水するシーンでの一連のコマ割りが顕著。紙媒体だとトーンワークがやや見づらいページがあるのが気になった。たまに目にする、デジタル環境の作画で「最終的に紙に印刷されることを判ってるのか?」とげんなりさせられる代物ほどではないけれども。
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マンガ雑誌の電子版では、モーニングが一歩先を行っている。
月額500円(週刊誌だが毎号の個別購入ではない)。木曜午前0時、日付変更と同時に配信。ただし『バガボンド』と『BILLY BAT』は収録されていない点に注意。紙媒体で読んでもらいたいという作家の意向らしいのでそこは酌みたいが、人気作が欠けていることを公式サイトに判りやすく記載していないのはかなり心証が悪い。
iOSアプリによる配信・閲覧なので、iPhoneやiPadが必要。Android端末への対応は準備中とのこと。
登録期間中のバックナンバーはいつでも閲覧できるため、6000円で1年分のアーカイブが可能という点に価値を感じる。