表現への挑戦 女子高生ラップバトル部『キャッチャー・イン・ザ・ライム』連載開始


週刊ビッグコミックスピリッツ 2017年34号(2017年7月24日発売) [雑誌]


 背川昇による新連載『キャッチャー・イン・ザ・ライム』が週刊ビッグコミックスピリッツNo.34(7月24日発売号)で始まった。
 しゃべるのが苦手で全然言葉が出てこない高辻皐月が、即興のラップで戦う「フリースタイルバトル」の部活に誘われる。

4コマパートの導入と開放

 作中で「4コマ」「非4コマ」のふたつの形式を使い分けているのが特徴的だ。入学式が明示される冒頭1ページ目は一般的なストーリーマンガのコマ割りだが、自己紹介がうまくいかず部活をどうしようか迷うシーンは4コママンガで描かれ、ラップバトル部のふたり(天頭杏・南木原蓮)が登場すると再びコマ割りが自由になる。
 4コマ形式のメリットは情報量だ。見開き2ページに対して4コマ×4本、4つのエピソードを描ける。読者としても見慣れたフォーマットだから詰めこまれた印象は受けにくいだろう。今回新連載の第1話にもかかわらず18ページという短さで、その尺にうまく収める効果は見込める。
 そして4コマという「制約」からの自在なコマ割りには対比で開放感が強く表れる。大ゴマのインパクトは格別だ。2話以降もこの使い分けを続けるのなら、バリエーションや発展形を見てみたい。


 4コマパートを別枠で進行させるテクニックといえば九井諒子『現代神話』*1だろう。


 博『明日ちゃんのセーラー服』では、見開きで4×4の16コマを「教室の座席に対応した生徒16人の名簿」として打ち出していて衝撃的だった(手前のページに名簿を開く指のコマを置いておく前振りにも注目)。

音のないマンガでラップを魅せられるのか

 ラップといえばライム(韻)。韻を踏む――母音が共通する言葉を重ねることで、リズムを作っていく。たとえば今回の扉絵には「日々最低 起死回生」「自己嫌悪、イノセントな言葉で仕留めんの」といったリリック(歌詞)が書かれている。
 しかしマンガの台詞は目で追いながら意味を拾ってはいるが音声として認識していない気がする*2。作中のバトルでは韻を踏んでいる箇所を太字で判りやすくしていたが字面だけではおそらく不十分で、読者が「脳内で音読」する姿勢に入る必要がある。個人的には特に意識しなくても、文章や単語をかみしめるような演出(今回でいえばタメ+傍点)があれば音で伝わっていると感じた。
 さらに本作はラップの中でも「フリースタイルバトル」だ。先攻後攻に分かれて、交互に相手を即興でDisる(けなす)。勝敗は観客のリアクションや審査員で判定。Disは的確か?前のターンのDisに十分にアンサーしているか?韻の踏み方はどうか?といった点に着目される。
 マンガは時間をコントロールできる。ボクシングで本来なら一瞬の間に、選手が何を思案しているのか心の声をかぶせられるし、実況が長々としゃべることすら不自然ではない。ラップバトルの最中にも、優勢か劣勢か、Disが痛烈か返せそうか、などの心情描写を加えることで、リアルとは異なる面白さが出るかもしれない。
 とにかくマンガで描くのは難しそうな題材だが、それだけにどんな表現が出てくるか楽しみでもある。エピソードを重ねてキャラクターの人間性が深くなるほどDisも活きてくると思うので連載が続いてほしいところだ。

監修に般若&R-指定(Creepy Nuts

 「フリースタイルダンジョン」という番組で、賞金を狙うチャレンジャーを倒すモンスターとして出演しているラッパーのR-指定(Creepy Nuts)、そしてラスボスの般若が監修の名義でクレジットされている。
 作品にどういった形で介入しているのかは判らないが、最近はお笑い芸人がラップをやると流行に迎合するなとか言われがちなので、ブームの立役者がバックについているのは心強いと思われる。
 今回のスピリッツには新連載記念企画「フリースタイルバトル講座」と称した鼎談が掲載されている。素人の自分にもなるほどと思える話が多かった。

背川 ラップが上手いのとフリースタイルバトルが強いのは、また別の話ですよね。
般若 バトルで勝ちたいなら、イヤなやつになるしかない(きっぱり)。
R-指定 ただ同じイヤなやつでも、勝てるやつと勝てないやつがいて、勝てるイヤなやつには、「こいつのここがダメや」っていう、相手をよく見てるからこそ出てくるフレーズがある。これは相手をちゃんと観察する愛がないと出てこない。

(週刊ビッグコミックスピリッツ2017年No.34 p.194)
 勝敗のカギとしても納得がいくし、フリースタイルダンジョン出演者のカップリング二次創作をTwitterで度々見たことを思い出した。いわゆる「関係性萌え」みたいなエッセンスはマンガだとより使えるかも……?

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 背川昇は腋汗という名義で、主にコミティアで活動していた。サークル名はキセガワ上流。

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【追記】『キャッチャー・イン・ザ・ライム』1巻が2018年2月23日に発売された。表紙かっこいい。

キャッチャー・イン・ザ・ライム 1 (1) (ビッグコミックス)

*1:『竜の学校は山の上』に収録

*2:アニメやゲームも存在するキャラクターをマンガで読む際に声優のボイスが想起される人がいるとは聞く。