『言の葉の庭』感想


劇場アニメーション 『言の葉の庭』 (サウンドトラックCD付) [Blu-ray]


 新海誠監督。2013年5月公開。


 靴職人を目指す男子高校生が、ある雨の日に公園で出会ったちょっと変わった女性と交流を重ねていき……。


 光の表現と空の描写は新海誠作品の特徴だが、そういった監督の武器がプロットと合致した上で発揮されている。これまでの中で最も、『秒速5センチメートル』よりも好きかもしれない。
 作中の季節は梅雨から始まり、「雨」が重要なアイテムとして話が進行する。主人公、ひいては観客の意識は天候に向けられるため、空の表情への関心が深まる誘導となっている。シナリオ自体はおそらく実写でも成立するだろうけど、非現実的な光の使い方はアニメーションという媒体だからこそ活きると感じた。
 新宿御苑(をモデルとした)という舞台も映える。主人公は諸事情により独り暮らしとなり、手に職というクラスのみんなとは違った目標のためか学校で群れようとする様子もない。(ネガティブな意味ではなく)孤独な生活がひとつ重要なポイントで、そのためには都会(≠田舎)の環境が適している。で、都会の象徴としてのビル群や電車の対比として、緑に満ちた空間がより美しく感じられる、と。


 思春期の男子が靴職人になるために努力する様を見て、ヴァイオリン職人、即ち『耳をすませば』を連想する人は多いんじゃないかな。とはいえ、「耳すま」では主役にとって憧れの存在が職人志望なのに対し、「言の葉」では主役かつ職人志望の立場から見て惹かれる人物がいるわけで、むしろ逆の図式とも考えられる。


 さてヒロインの話を。朝っぱらから公園で缶ビールを飲む、高校生にとってのオトナ像からズレた女性。自律している主人公にはより異質に写る――自分とは違う何かを感じさせる彼女。
 まあくだけた雰囲気で接してくれる年上の女の人ってだけで、好きになってしまうスイッチはほぼ入りかけている。というかショートカットなので第一印象から決めてました。声優の花澤香奈を魅力的に感じる人も多いのでは。


 作品の尺は46分。描かれる内容に対してこの上映時間は適切で、80分辺りの劇場用アニメ標準の枠でなくとも許される点に新海誠の地位の拡大がうかがえなくもない。ちなみに観賞料金は一律1000円だった。


 『星を追う子ども』を観て感じた「うーん、ちょっとこの大作路線は求めてないんだけどな……(もしや今後もこの方向で依頼が……?)」という不安は払拭された。次回作を楽しみにしている。

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 同時上映の『だれかのまなざし』を観たい、というのが映画館に足を運んだ理由のひとつでもあった。元々は野村不動産グループのイベントで上映されたショートフィルムだとか。
 映画のフレームをマンガのコマと対応させる見方があるが、本作では画面をコマでなくページの一部として解釈した方がしっくりくる構図が目立った(例:白い画面の中心に四角く縁取られた空間があり、その内部に建物が描かれている、意味としては場面転換を表すカット)。「まなざし」がマンガ表現論の分野で重要なワードなことも印象に影響しているかもしれない。
 ごく短い作品だが、始まって早々に泣いてた。家族やペットを涙腺のウィークポイントだとは認識してないんだけどなぁ。制作依頼主のリクエストにきちっと応じた、そういう意味でもプロの作品だなと思った。