『イハーブの生活』『来世であいましょう』『メタラブ』小路啓之の訃報

 マンガ家、小路啓之が逝去した。自転車で走行中に転倒して頭を強く打った可能性があると見られている。


 長期連載や大ヒット作こそなかったものの、独自の作風でコンスタントに作品を発表し続けてファンを獲得している作家だった。お悔やみ申し上げます。


 2014年にモーニング・ツーヤングチャンピオン烈でダブル新連載がスタートしたのが記憶に新しい。メモしたきりでブログにアップせず死蔵されていたテキストがあったので載せておく。

  • 『メタラブ』

 モーニング・ツー8月号(6月21日発売)から連載開始。
 他人が内心望んでいるメッセージが聞こえる男の話。ずっと頑張り続ける姿勢を周囲から褒められ当人も「そういうキャラ」だが本心ではもうやめたい……と思っている人間にさらっと優しい言葉をかけるなど、コミュニケーションでは失敗知らず。ところがある日出会った女性からは何も聞こえてこない。武器を失ったら一転弱者。さてどうする?
 心の声が聞こえる能力は定番だが、ツカミがセックスなのがこの作家らしさ。相手が欲しがるベストのタイミングで挿入できる能力、これは強い。
 「聞こえる」とは言ってもマンガなので台詞と同じく、しかし差別化された文字表現になるわけで、その辺りにも着目している。両耳を通り抜けるかのように見せる横書き文章(→)と、読者の視線の流れ(←)が合わないのがやや引っかかる。

  • 『束縛愛 〜彼氏を引きこもらせる100の方法〜』

 ヤングチャンピオン烈7月号(6月17日発売)から連載開始。
 他人の頭上に浮かぶ「数字」が見える少年。この増えることはあっても減ることはない数字、変わり者の少女と遭遇してから自分にも表れたことに気付くが……。
 法則を探っていく話なのかと思いきや、主人公のものが数字どころかナメック文字より判読不能な記号の塊でぎょっとした。これが少女の秘密とどう絡んでいくのか。
 

 ちなみに初連載作『イハーブの生活』の新装版がマッグガーデンから刊行されている。

 2016年に始まったミラクルジャンプでの『雑草家族』、コミックフラッパーでの『10歳かあさん』は未完となってしまった。


 マンガ家の突然の訃報に接する度に思う。新作を読めるチャンスが永遠に失われてしまったのは哀しい。しかし一度世に出た作品は変わらず存在し続けることができる。そのためにも出版社には、絶版本の電子書籍化や、単行本未収録の原稿を編集するといった、マンガを生かす手段をお願いしたい。
 具体的には、コミックフラッパー2016年3月号に掲載された読切『浮遊する種』*1を読みたい(コミックフラッパーは2016年3月から電子版も発売されているはずだが、現在5月号以降しか検索でヒットしない)。