漫画ナツ100 2009
今回のルールは「コレがおれのベストチョイスだ!という漫画を100あげてください」(最低ライン90)というシンプルなもの。単行本化されていない読み切りでも同人誌でも、マンガなら何でも可。細かいQ&Aはサイトを参照のこと。
何でもありなのですごく悩みました。ぎりぎりまで。削ったり足したりする内に、ただでさえ不確かな判断基準がより判らなくなったり。山名沢湖『ピコレースはしごレース綿レース』を残して手塚治虫『空気の底』を切るのは正しいのか、とか。〆切を迎えた現在の、自分なりのベスト100です。
(14日にコメントを追記)
ヒーローものに社会風刺を中心とした多様な要素を盛り込みながら、それらが破綻なく重層的にまとまっている。ロールシャッハはデザインも信念もかっこいい。
各ジャンルの特徴など、着眼点やネタの拾い方がうまい。本当に実用的な気がする。
一風変わったキャラクター造形と「間」が好き。あさりよしとお作品はどれも気に入っているけれど、代表作ということでこれを。
擬人化センスが如何なく発揮されている。解説も判りやすく、図解が特に秀逸。
高校時代、親しい友人達の間ではもはや共通言語だった。大学に入っても、なお共通言語として通用した。
固定観念に捉われない、子供の発想や着眼点にはっとさせられる。会話のやり取りの面白さを重要視している。
暴力、それを生み出す狂気、それに伴う恐怖の描き方が圧倒的。
能力バトル、奇抜なコマ割り、台詞回し…。全てに心酔する。信念のある悪役の魅力は大きい。
書誌情報の上では別個だからと1枠使ったが、考えてみれば文庫版ではまとめられている。奥付を参照したい。
絵も表現もバトルも、立ち止まらず変遷し続けているのがすごい。リンゴォ・ロードアゲイン戦は名勝負。
自由にアイデアを盛り込める短編をもっと描いてほしい(大変らしいけど)。1999年初版だがまだまだ増刷中。
軽妙な会話が魅力だが、よく練られた構成に裏打ちされている。嗜好を知らない人から「私マンガ好きなんだけど、今オススメは?」と訊かれたら、まず本作を挙げようと決めている。
劣勢を切り抜けていく様は手に汗握る。
- 原作:三条陸、作画:稲田浩司『DRAGON QUEST ダイの大冒険』
題材となる超メジャーなゲームのイメージを壊さず、それでいてきちんと少年マンガになっている。ポップ的な記号はうまく使えば人気キャラを作るのに便利そうだけどあまり見ない。料理するのが難しいのか。
「お前は鰈だ/泥にまみれろよ」は良い台詞。ディフェンスに定評のある池上はネタ扱いされてるが普通に好きだった。
清く艶かしい2人の関係(以前取り上げて頂いたコピーの流用)。顔を赤らめている女の子が好きで堪らない。卜部可愛いよ卜部。
ジャンプで第1話を読んだ時、「この世にこんなにも面白いマンガがあるのか!!」と衝撃を受けたのをはっきりと覚えている。
子供を育てることと真摯に向き合っている作品。宇仁田ゆみの「間」は読んでいて心地良い。
読者の感情の揺さぶり方がうまい。
暇潰しで消費されるのもマンガのひとつのあり方。「たまたま雑誌で1話だけ読んでも面白い」構成として完成度の高い本作はその点で強い。矛盾するけど再版求む。
度が過ぎた言葉遊びの視覚化は狂気を孕む。素敵。
- 遠藤浩輝『EDEN』
無情な展開や絶望を容赦なく描く作風が好み。作者が色々と語りたがる人なので、テーマの内包のさせ方を読んでいく楽しさも。
- okama『華札』
前編カラー。美麗。ポップでもファンシーでもない、シリアスなokamaは新鮮だった。
一貫したストーリーで56巻まで続いていて、今なお最高潮に面白いすごさ。
雰囲気の表現がとてもうまい。初めて読んだ時、自分の中のマンガ観が少し広がった。
- オノ・ナツメ『COPPERS』
一癖ある人間関係の描き方が好きなので、群像劇が活きる。
- 原作:大場つぐみ、漫画:小畑健『DEATH NOTE』
後半が何かと叩かれがちだけど、前半が面白かったことには変わりないから自分の基準では満足。
作者の意図と編集部の方針がどう絡み合って形になっているのか興味深い。ジャンプでの連載で影響力が大きいが故に、メタ的な面白さが増す。穿った見方をしなくても、引きのうまさは流石。
要はギャンブルマンガの手法なんだけど、野球に対する固定観念の隙をうまく突くことで読者に与える意外性がぐっと増している。
わいわいがやがやしている様子がとても楽しそう。キャラの記号化が行き過ぎていないところにはっとした(ボクっ娘の一人称がスルーされない辺り)。顔を赤らめている女の子が(略)。歩巳が可愛い。
知らない業界の話は面白い。プロペラの改造など、競艇の勝負の厳しさに感心。
- 木多康昭『幕張』
『バクマン。』で瓶子編集が出てくると鬼瓶を思い出して困る。
オタクの嫌な部分を直視させられるため、読んでいてとても辛い。『げんしけん』でオタクに陽のイメージを抱きすぎたらこれで中和すべき。
- 鬼頭莫宏『ぼくらの』
1巻の展開がなかなかに衝撃的だったので、紹介する時に肝心の設定を伏せる必要を感じてうまく伝えられないジレンマ。
これこそ自分の求めている群像劇。一見して背景にすぎない人にも、その人なりのストーリーがある。
ラブラブなんだけどベタベタできない感じでニヤニヤ。顔を赤(略)。ゲームへの思い入れがあるのも好印象。
- 黒田硫黄『茄子』
作劇のためにしゃべっていると感じさせない台詞回しが新鮮だった。ストーリーの切り取り方も然り。
成年コミック。エロへの創作の熱意に心を打たれた。これもひとつのマンガ家マンガ。ロリコン方面への実用度がおそらく高いので、その辺は注意が必要。
- 古賀亮一『新ゲノム』
珍言妄言が次々と飛び出す古賀亮一のセンスが大好き。音速丸と忍者のかけあいも良いけれど、最初に出会ったのはパクマンさんなのでこちらを。
- 桜玉吉『幽玄漫玉日記』
エッセイコミックがその名称も相まってあまり気に入らなかった一時期、ある日ふと大好きな桜玉吉が描いているのは日記マンガだと気付いて複雑な気分に。
「good!アフタヌーン」で連載中。単行本未発売。沙村広明の真骨頂は小ネタを入れ込みつつ本流がカオスなギャグにあり、と見た。
魅力的なキャラクターができると話が転がしやすいだろうなと感じさせる。
笑いと悩みと泣きがどれも歪んでいるため、うまくハマればその組合せの破壊力たるや絶妙。もう大好き。
肉奴隷のパンツをめくるとドブ川が浄化されるとか、いちいちセンスがかっとんでいる。
ぐだぐだ感や不器用なところに妙な魅力がある。
主要な登場人物全員に思い入れがあるので、何かある度にやきもきしてしまう。真穂と佐々さんと高槻くんが特に好き。
時折、現実感というか生々しさを突きつけてくるのがとても良い。
- 高野文子『黄色い本 〜ジャック・チボーという名の友人〜』
空想が現実と錯綜する感じが好き。よく読書をしていた昔を思い出した。
雑誌のカラーに合わせた作品を用意できる辺りにベテランの実力を感じる。
- TAGRO『マフィアとルアー』
どろりとした感情を抱えた、痛々しい話にたまに触れたくなる。
- 辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』
マンガ表現に関する本で得た劇画についての情報を、当時の状況の描写などでうまく肉付けできた。マンガ学に興味のある人は一読の価値あり。
今作を手に取り、谷川史子を今まで読まずにいたことを後悔した。女性向けマンガの中では男性ファン率が高そう。
2004年の夏、今のように広く面白いマンガを求めるようになったきっかけの作品。
キャラクターの視点によって表現を変える手法は、今思うとマンガ表現に興味を持つ原体験だったのかもしれない。
第5話、キャラクターを左右のページで対比して見せる表現にやられた。
ライフワークとも言える作品に対しても実験的なコマ割りを盛り込む辺りに、手塚治虫の攻めの姿勢を感じる。
「ハッピーエンドとは限らない」不安感を子供心に相当植えつけられたような気がする。
- 道満晴明『性本能と水爆戦』
世界観にしろキャラクターにしろ言動にしろ、奇怪なショートショートを描かせたら道満晴明は最高峰だと信じてやまない。自信を持って天才だと言える数少ない作家だが、決して広くオススメはできない。
- 道満晴明『続性本能と水爆戦』
『性本能〜』と今作をまとめた『性本能と水爆戦 征服』が発売中だが、旧版に思い入れがあるので1枠使わせてもらった。
- 道満晴明『偽・性本能と水爆戦』
コアマガジンでの原稿を収録した同人誌。ヒット出版社での未収録原稿も同人誌として出していたんだろうか。黒○徹子と思しきロボットがタモさんにアナルファックされる話がもう一度読みたい。
- 道満晴明『最後の性本能と水爆戦』
4ページや8ページで、脳に強烈な印象を刻み込む話を展開できるのは素晴らしい。快楽天での4コマも決して悪くはないが、やはりショートショートを読みたい。
寂寥感に満ちた、退廃的な雰囲気が見事(某所で採用されたコピーの流用)。世間から離れて暮らす様に、昔の自分と将来の自分をそれぞれ別の観点で当てはめて物思いに耽ってしまう。6巻表紙の複製原画は大事にしている。
何もかもツボ。エピソードごとの状況に変化を与えるキャラクター(湊や柚原)が良い味を出している。なかなか単行本が出ないので、いつでも読み返せるように今作が掲載されているビジネスジャンプだけ買って保存している。ハルが可愛い。
- 冬目景『ももんち』
全1巻でほのかな恋物語という、冬目景をオススメしやすいパッケージ。シリーズ読み切りが決定した際、しばらく前に掲載されたが読み逃していた初回を閲覧するために国立国会図書館へ出向いたのも良い思い出。
子供心にトーナメントを楽しんでいたのは間違いないため、今作に限らずジャンプ編集部のバトル展開へのテコ入れを一概に非難できない。
短いストーリーだと話の転がし方のうまさがよく判る。この頃の熱意(特に絵に対して)はもうないんだろうか。
ハンター試験編も良かったし、完全な能力バトルにシフトしてからも抜群に面白い。グリードアイランド編の趣味全開っぷりには好感が持てる。早く連載再開しないかな。
タイトルに「新」を付け忘れていた。不覚。バトル展開の合間に、きちんとギャグ回をはさんでいるのが良い。
人間の汚い心の描き方に容赦がないため、テーマがより際立つ。アルカディア編が特にお気に入り。絵柄や、シリアスな場面でも下ネタを挟む点が敬遠されがちで、手に取ってもらいにくいのが歯がゆい。
長期連載用によく構成が練られている。能力バトルも面白い。他の仕事もいいけど早く新章を描いて下さい。
2008年のイチ推し。読み切りの段階から、作者の独特の画風や軽妙な会話が好みだった。連載版ではピンボールへの熱意というテーマや、ここぞという時の表現のうまさが強化され、とても面白い作品に仕上がった。
8月21日に1巻発売。人と人とのつながり、コミュニケーションを変わったアプローチで描いている。これと『百舌谷さん逆上する』が個人的にアフタヌーンのツートップ。
昔は家にあまりマンガがなかったこともあり、読み返した回数が最も多い作品だと思う。カバー折り返しのコメント(欲しいものを絵に描いていた話など)にも愛着があるため、完全版を揃えようとは全く思わない。
マンガ家マンガの中でも、情熱や青臭さに関しては引けを取らない。
- 萩尾望都『半神』
16ページで深い感傷を抱かせるこの作品に、マンガという媒体の力を感じる。
ダークでグロテスク、と思いきやほのぼの。何かと独特でハマると抜け出せない。恵比寿やギョーザ男がいかす。
狂気に満ちたキャラクターが、狂気を感じさせる絵で描かれる、シンプルなかっこよさ。
- 平野耕太『以下略』
『HELLSING』おまけページのネジがいくつか外れたセンスが濃厚に発揮されている。ゲーム好きだとより面白い。
読んでいて暗い気分になるし、たまに作者の言動や思考が不安になる。まさかモーニングで連載することになるとは。
最初の限定ジャンケン編は濃密ですごく面白かった。
悪ノリするドラえもんも、保護者的な立場のドラえもんもそれぞれの魅力がある。小さい頃に判らなかった「Yロウ」の意味に気付いた時の驚きはとても快感だった。
実家に本編より多く(10作)置いてあり、頻繁に読み返していた。映画版は全く観たことがない。
- 藤子・F・不二雄『異色短編集』
真に黒いのはAではない、Fだ。
マンガ家マンガの代表作。AのFに対する感情が見えて興味深い。
個々のエピソードが適度な長さでまとまっていて、クライマックスにはそこまでに散りばめた要素をうまく絡めて盛り上げる。今思うと週刊連載としてうまい構成だった。死に様もまたひとつの生き様。
熱さや感動について語られることが多い作者だが、狂気や絶望の描き方がズバ抜けているのも大きな魅力だと感じている。もう少し早くまとめに入るべきだったとは思う。掲載順位がほぼ最低のまま、完結まで続けさせてくれたサンデー編集部に感謝。
おとぎ話を藤田和日郎の勢いでどう料理してくるのか毎回楽しみ。
- 鮒寿司『胎界主』
WEBマンガ(URL→■)。適度に練られた設定と絶妙な伏線の仕込み方で、読み返した時の面白さはかなりのもの。能力バトル的な展開もまた良し。しかし大抵の人は序盤で投げてしまうだろうし、それも無理はないと思う。
今作と『グリーンヒル』の頃のバランスが絶妙だったと思う。現状は現状で好きだけど。
モーニングで『全てはマグロのためだった』を読んで感動した。圧倒的なマンガ力を、方向性を間違えることなく馬鹿げたアイデアに全力で注ぎ込むその姿勢ッ、ぼくは敬意を表するッ!
- 牧野博幸『勇者カタストロフ!!』
過剰なまでに絵にメリハリが利いた作風が当時ツボだった。昔エニックスの雑誌では、RPGの勇者パロディものが多かったんだろうかとふと思った。
冷めた主人公がある日女の子と出会い、不思議な能力を手に入れるという展開に「何だかなぁ」と思いながら読んでいたら突然心を掴まれた。各巻ごとに考えられた構成も良い。以前に比べたらかなり知名度は上がっていると思うが、もっともっともっと有名になっていいはず。今回何位だろう。
- 森川ジョージ『はじめの一歩』
ホーク戦と会長の昔話が熱い。合間のドタバタ感も好き。
バレエの世界の厳しさが伝わってくる。予想外の展開に呆然としてしまった。
絵や台詞回しに怪しい魅力がある。ネタとして使われているのをよく見るが、作者が本気で捻り出した表現だからこそ感じ入るものがあるはず(例えベクトルがずれようとも)。
2009年の要注目作品。生きた台詞による軽妙な会話と、良い意味で唐突な展開がとても気に入った。いきなり任侠の盃についての解説が始まったときは何事かと。
勢いがあって少しずれている女の子こそ、山名沢湖の力量が発揮されるキャラだと感じるのは、おそらく最初に読んだ作品『ピコレースはしごレース綿レース』の影響。
同じ人間関係でも、主役を変えることで新しく見えてくるものがある、という構成が大好物。
- よしながふみ『大奥』
「男女逆転大奥か。BLを描くよしながふみらしい話だなぁ」と思いつつ読み始めたら、そんな安易な設定ではなくのめりこんでしまった。
アメコミ等を少年誌に落とし込む形で再デザインした、という捉え方ならありなのでは、という擁護。仮面の下は醜悪であるべきというあの頃の和月はもういない。