冨樫義博が語る映画字幕から得たもの

 クラピカ追憶編が収録された特典「HUNTER×HUNTER 0巻」を12日に映画館で入手に成功。


 この冊子中の「冨樫義博 一問一答」に興味深い回答があった。72ページから引用する。

Q5 漫画を描く上で、映画に影響を受けている部分はありますか?
一番参考にしたのは字幕ですね。限られた字数でいかに簡潔に効果的にその状況に合った言葉を紡ぐか、という課題は私にとって構図やデッサン以上に重要なものでした。

 映画翻訳の字幕はオリジナルの台詞1秒につき4文字までとされている。一度に表示できるのは横組みの場合26文字(13文字×2行)。
 マンガに制限基準は設けられてはいないが、原則として台詞は削るべきだという話はよく見かける(新人作家に対しては特に)。画面内を占める文字が増えるほど、構図の自由度がなくなるといったデメリットが考えられる。


 『HUNTER×HUNTER』は能力バトルの過程や設定の提示など、下手をすると説明的になってしまうシーンが多く見られる。にもかかわらず退屈な印象に結びつかない理由のひとつとして、映画字幕の制限が意識されているのは納得がいく。
 もちろん単に台詞を削るだけでなく、ページ単位・コマ単位・ふきだし単位でのテキストの切り分け方、更に文と絵のマッチングといった総合的な判断で面白いネームが出来上がるのだろう。それにしてもマンガ家のインタビューで映画の参考といえば構図やプロットの話が多い中で、字幕に着目していたのは冨樫義博らしい。


 ちなみに好きな映画1位は『エイリアン』とのこと。

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 映画の字幕といえば、しゃべっている相手を黙らせる装置「SpeechJammer」でイグノーベル賞を受賞した栗原一貴の発明、「CinemaGazer」を思い出す。


 「CinemaGazer」は映像圧縮ソフトで、例えば尺が10分20秒のアニメ『スーパーマン』を2分で見ることができる。仕組みは聞いてみればシンプル。字幕がある部分は文章を追えるスピードで、字幕がない間はギリギリまで早送りするというもの。


 この「文章は読む」「文字がないところは何が起こっているか認識できる程度に通り過ぎる」という緩急には、"マンガを読む体験"について考えるヒントがあるようにも思える。