独特の読み味を誇るショートショートの名手、平方イコルスン。非凡なのはその台詞回しのセンスだが、みっしりと詰め込まれたコマ割りも特徴のひとつである。
マンガはコマ割り、時間・空間の切り取り方と並べ方によって、読者に与える印象をコントロールすることもできる。限られたページをどう使っているのかに着目すると、細かいテクニックらしきものに気が付くこともあり面白い。
平方イコルスン『相討ち』に、"圧縮"の巧い使い方があったので解説する。
まずは作品を読んでもらいたい。『楽園』WEB増刊で公開されている(以下のリンク先へアクセス→ページ中ほど左端の「WEB増刊へGO!!!」をクリック→カレンダーが表示されるので7月24日を選択)
ほとんど出オチのような掴みで「何だこりゃ」感を叩きこんでおいて、終わってみればみずみずしい青春の只中に連れて行かれている。語るべき点が多い作品ではあるが、今回取り上げるのは以下のコマ。
(図1 平方イコルスン『相討ち』 p.4 11-12コマ目)
ふたりが並んでいる場面だが、右のコマでわずかに女の子が見切れている。これによって左のコマが活きてくる。
順を追って見ていこう。人物の位置関係を表す上では、ひとつのコマにおさめるのが普通だ。雑な改変で心苦しいが、以下に図2を示す。
(図2 図1の画像を加工したもの)
しかしオリジナルでは、ふたつのコマに分割して描かれている。何故か? 理由として考えられるのは時間差の強調だ。コマ間の空白を挟むことによって、ふたつの台詞がただ続けざまに発されたのではないように読める。
(図3 図1の画像を加工したもの)
実際の絵では"見切れ"により、左右のコマで女の子のポーズに変化が見られる。ふたつの台詞に時間差があることが強調され、何より相手の方を向き直しての反復だと示されている。
説明ではなくあくまで自分の感覚では、左のコマだけシールで上から貼ったかのように、動的に挿入された印象を受けた。
とはいえ、こう考える人もいるかもしれない。ふたりが並んだ様子を2コマ続けて描けばいいのではないか、と。それなら女の子の変化もはっきり判る。
改めて作品の4ページ目を見てほしい。このページは上から大きく分けて3段で構成されている。2段目の最も左のコマ「やれるだけやっときたいなぁ」、ある意味での"引き"からつないで、3段目のひとまとまりの流れで終幕まで持っていく過程に冗長なコマを挟んでいる余地はない。この限られたスペースの中に描くべき内容を圧縮する手腕にお見事と感じ入った。
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コマ割りによって生じる差異に関しては、お題に沿ってマンガを描いてもらう(未経験者大歓迎)ほったゆみの企画がとても興味深い。