深夜ラジオの雄、伊集院光が朝のラジオ番組を開始

 タレント伊集院光といえばクイズ番組での活躍ぶりが世間一般のイメージだと思われるが、本職はラジオパーソナリティだ。20歳で単独レギュラー番組を獲得。1995年に始まったTBSラジオ深夜の馬鹿力」(月曜25:00〜27:00)は現在も超の付く人気番組だ。
 2016年1月18日に、TBSラジオで30年続いた長寿番組「大沢悠里のゆうゆうワイド」(月曜から金曜、8:30〜13:00)が4月で終了との発表があった。*1後継者として指名されたのは伊集院光。「深夜の馬鹿力」への影響が心配される中、新番組が始まった。

 「伊集院光とらじおと」(月曜から木曜、8:30〜11:00)初回の4月11日から14日までの放送を聞いてみた雑感を書いておく。


 まず構成が想像以上に細かく決まっている。深夜ラジオは2時間番組だと前半にフリートーク、後半に投稿されたメール等を読むコーナーという構成が基本……ではあるが、生放送のノリ次第でコーナーが飛ばされたりすることもある。絶対なのはCMを入れる回数くらいだ。一方で朝番組は時間配分が厳密。たとえば「伊集院光とらじおと」では、8時45分までがおたよりのコーナーで、この枠は日本香道の提供でお送りされる。
 スポンサーの主張が強いのも深夜とは大きく異なる点だ。通常のCMとは別に、スポンサーの提供枠がいくつもある。開始時にヤマザキやAGFなど企業名が読み上げられ、終了時に関連商品のリスナープレゼントの応募方法が告知される形で、間のトーク内容は比較的自由のようだった。一方で完全な通販番組、ラジオショッピングのコーナーも存在する。
 伊集院光は過去に日曜昼の番組を担当していたこともあってか、定型が求められる部分はそつなくこなしていたように思う。とはいえ横槍を入れるのが許されないスポンサーの宣伝タイムは退屈だ。好きなコーナーに集中して聞く方が良さそうに思える。


 今後も聞きたいなと感じたコーナー。まずは「伊集院光とらじおとニュースと」。最新のニュースに対して、あとから情報が追加されて何か覆ったりするかもしれないが、現状の意見をコメントする。「炎上を恐れない」とも言っていたかな。深夜と違って笑いに寄せない語り口で氏の考えが聞ける機会はあまりなかった。これは曜日に関係なく毎回9:00スタート。
 火曜日だけのコーナー「Yahoo!知恵袋 俺の五つ星」。食事にまつわる忘れられない思い出の味のエピソードを募集して発表、お店の現在などの詳細を調査する。記憶の中で過度に美化されている可能性も込みで、情報を集めて検証していく過程が楽しめるのではないかと。
 ちょっとあれなレコード「あれコード」を紹介する企画は好きだけどたぶんレギュラーではないはず。昔やってた「おバ歌謡」の路線だ。
 あとはプレゼン対決で勝った方をリスナープレゼントにする「伊集院光とらじおとぷれぜんと」(水曜)、旅行体験談を語る「H.I.S. presents 伊集院光とらじおと旅と」(木曜)。このふたつは若手芸人に出番が与えられていてグッド。


 ゲストを呼んでのトークゾーンはいずれも面白かった。阿川佐和子のお見合いエピソードとか、石塚英彦の結婚秘話とか。深夜ひとり妙なテンションで長々としゃべり続ける伊集院光が一転、ゲストが話しやすいようにパスを出す様子を耳で拾うのも楽しみのひとつ。しかし松村邦洋には終始笑わされた。恋愛についてはプロで、みたいな話に一瞬理解が追い付かなかったが、ソープのことだと判り納得。朝の番組なのでもちろん軽いお叱りを受けていた。


 現時点での判断として、週の合計で10時間かけて聞くほど面白さに密度がある番組には感じていない。というか録音が面倒なのが何よりの問題。各曜日でアシスタントが変わる体制なので、メンバーの持ち味を理解したら感想も変わってくるかもしれない。とりあえずは興味のあるゲストが来ると事前に判った回だけチェックする聞き方になると思う。
 4月20日(水)はゲストに六代目三遊亭圓楽(襲名前は楽太郎)、伊集院光の落語家時代の師匠が来るので必聴。

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伊集院光のてれび 完全版 ~真剣じゃんけん 女芸人編~ [Blu-ray]
 企画・構成・演出・主演・編集・ロケ弁発注、伊集院光全権掌握番組。結託か裏切りか、疑心暗鬼の勝負「真剣じゃんけん」で揺さぶられる女芸人の生々しいリアクションを追う。

四谷啓太郎『大人になったら美人になる子ちゃん』ヤングマガジンに掲載


ヤングマガジン 2016年14号 [2016年3月7日発売] [雑誌]


 四谷啓太郎はショートマンガをTwitter等で発表していて、そのうちの1本を12ページにふくらませたものが読切としてヤングマガジン2016年14号(3月7日発売)に掲載された。
 オリジナルを読むにはこちらのURLをクリック。 [ https://twitter.com/ezweb_dylan/status/682562862343049219 ]


 2015年夏にジャンプ+に掲載された『悪魔のメムメムちゃん』が面白かったので次回作に期待していたのだけど、ヤンマガに呼ばれるとは。今後どうするのかな。

 メムメムちゃんは作者の武器、赤面と涙目がてんこ盛りとなっている。サキュバスとしての成績が悪くて困っているのだが、妙に図々しいというか「コイツいい性格してんな、おい」と思わせる魅力がある。大ゴマの使い方だけでも読んでみてほしい。


 過去作品は概ねpixivにもアップされている。初めて読んだのは以下の5枚目「クイズ」だったはず。

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【追記】
 前号のヤングマガジンで始まった、アズ『手品先輩』もなかなか。試し読みは以下のリンクから。

 雑誌の表紙で新連載のアオリ文が「パンチラありマス*1」なのがいかにもヤンマガ。ただその「赤面+汗タラり」のカットに当たりではないかと思わせるものがあった。
 後輩男子を困らせてくる先輩女子……がへっぽこなショートギャグ。雑誌の中でいいポジションに居座れるかどうか。第3話*2のエプロン姿の髪型がめっちゃ好みだったのがこの追記を書くエネルギーとなった。やや長めのボブカットをちょいと後ろでまとめたスタイルは最高。


 メムメムちゃんと同じ企画で掲載された作品をもうひとつ紹介。読切が好きな人には強くオススメ。

 ゼノンで一芸突破マンガオーディション優秀賞を取っていたとは知らなかった。WEBでも読めるのはありがたいが、ぜにょんの縦スクロールフォーマットが見開きを殺しているのが悔やまれる。

*1:原文は□内に/の記号

*2:最新号では一挙2話掲載

コミティア作家がジャンプ+に読切掲載 たいぼく『かいじゅうのつかいかた』

 怪獣だという正体を隠して学校に通う女の子の平穏危うし。
 丸っこい絵柄とザラついた筆致の同居が魅力的な作家。困った顔とあくどい表情が丹念に連発される。ギザギザの吹きだしは大声のサインとして使われるが、その形状が内に秘めた怪獣の特徴と重ねて表現されていて目を引いた。
 吹きだしをもう一例。捕食者に絡めとられるかのような表現。「いいかな」の下のコマで男が見せる顔のいやらしさがより光る。


 たいぼくは自主制作漫画誌展示即売会「コミティア」を主な作品発表の場としていたようだが、2015年3月に画楽ノ杜に掲載された読切『吸いも甘いも』で商業デビュー。ホーム社の路線で活動するのだろうと思っていたので、ジャンプ+への登場は意外だった。これがブレイクの足掛かりになってほしい。

*1:tumblrって個人サイトと呼んでいいものかよく判らない

台詞の切れ味に渋さが光るジャンプの新連載 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』


 週刊少年ジャンプ2月15日発売号で始まった新連載、吾峠呼世晴(ごとうげ とよはる)『鬼滅の刃』が面白かった。 【試し読みはこちら】


 人喰い鬼に対抗する力を求める話。傘貼りの内職があるような和の世界観で吸血鬼ものをやる。丁寧に進めていくタイプだなと読み進めていたら、台詞がバシッと決まったシーン(生殺与奪の権)で引きこまれた。ジャンプらしさの希薄な作風に感じたため、誌面にどう適応していくのかにも注目したい。あと完全にノイズなのだけど、ギャグボールが好きなので口枷にちょっと興奮してしまった。
 で、この記事のアップが間に合わなかったので第2話も読む。うーん、さらに次号が重要な回っぽいからそれ次第かな……。


 また、吾峠呼世晴の過去の読切がジャンプ+で公開されている。4号連続、それぞれ2週間限定。


 それと『鬼滅の刃』より1週早く始まった対照的な新連載、ミウラタダヒロゆらぎ荘の幽奈さん』も合わせて読むと面白いかもしれない。超スピードで下宿に入居して住人のヒロインたちが紹介される手際は最適化の芸だ。風呂場で遭遇もするし、うっかり乳も揉む。ジャンプのお色気枠としての仕事を完遂している。 【試し読みはこちら】

とよ田みのる読切連弾企画 ゲッサン3月号からスタート


ゲッサン 2016年 03 月号 [雑誌]


 ゲッサン3月号(2月12日発売)から、とよ田みのるの読切が5ヵ月連続で掲載される*1
 第1弾は『イマジン』。小学生グループの「白線から落ちたら死ぬ」ルールのような、ごっこあそびのイメージをダイナミックに描いている。空想が生み出す力の強さを感じさせてくれる作品。
 伊集院光が「幽霊は信じないが怪談は怖い」自らのスタンスの類例として、ウルトラマンはいないけどカッコイイだろと語っていたことは記憶の引き出しの手近なところに置いてある。


 とよ田みのる作品はいずれも魅力的だが、何か挙げるならまずは『FLIP-FLAP』と決めている。全1巻。

*1:4作品、うち1作が前後編

科学的なアプローチを体現・実行する強さ 『オデッセイ』感想


Songs from the Martian(輸入盤サウンドトラック)


 火星に取り残された宇宙飛行士が生き残るために人類の叡智で奮闘する。


 無人島サバイバルの超ハードモードみたいな話。居住施設や発電装置などは残っていても、生物がいない火星では食料を調達できない。
 元々の調査チームは6人。悪天候によりプロジェクトを中断して地球に帰還することになったが、ひとりがアクシデントで行方不明に。呼びかけても応答はなく、彼の宇宙服の破損を知らせる警告が発信されて1分以上が経過したいま、生存は絶望的だ。強風により時間が差し迫る中、5人での火星脱出の決断を下す船長。報告を受けた地球では、尊い犠牲として葬儀が行われる。だが彼は、マーク・ワトニーは生きていた。
 地球からの救援には期待できない。かといって自力での脱出も不可能。暫定的な目標は「NASAが再び火星探査にやってくる時まで生き残る」なのだけど、その予定が4年後。さらに発見してもらうには現在地から3000キロ以上も移動する必要がある。そもそも正規のロケットですら地球から火星まで414日かかると言われると「天文学的」という言葉を噛みしめざるを得ない。*1


 そんな過酷な環境であろうとも、へこたれない姿勢の強さを描いた映画だ。それも無策でただ耐えるのではなく、最善を尽くすために考えて行動する。
 日誌として映像記録を残すためにカメラに向かって「実は生きている」現状を報告するシーンがあるので、以後全編に渡っての説明台詞の独白が正当化される。それどころか、いま何が問題で解決のためにどう行動するかを逐一しゃべる。たとえば宇宙船が爆発して乗組員が全滅するようなリスクを減らすために、燃えやすい物質は持ち込まれていないので火を起こすのが難しい、さてどうするか。この実験プロセスがノリノリで、本来なら深刻な状況に反して明るく楽しい。ジョークも饒舌。隊長が持ってきていた音楽のセンスに文句を言ったりもする。
 途中で流れた曲のタイトルが思い出せなくて、エンドクレジットで確認したらデヴィッド・ボウイの『Starman』だった。その瞬間にニヤリとしたかったなー。主人公が高らかに歌いあげる『Hot Stuff』の使い方は直球。
 笑ってスクリーンを眺めながら、ワトニーの前向きなふるまいには、もし失敗して自分が死んでしまったとしても残された映像が「科学の発展」に寄与すればそれでいいという意識が表れているのではないかと考えていた。
 事態の改善を模索する中で、ついにNASAとの通信に成功する場面。火星にあるカメラで地球に映像を送る(紙に文章を書いて写す)ことはできるが、地球からのメッセージを受け取る方法がない。これを解決するコミュニケーション手段の発案に痺れた。
 そしてここから、NASAによるワトニー救出ミッションが動き出す。火星での孤独なサバイバルと平行して描かれる、地球の専門家集団による計画が熱い。*2


 困難な課題にブチ当たったときに、何をするべきなのか。タスクを細分化して、いまできることを探す必要がある。絶望的な状況に陥りながらも、残された食料を数えて生存可能日数を計算する「当たり前の姿」に彼の強さを見た。

俳優について

 主演はマット・デイモン。知的でタフな役柄が似合う。『インターステラー』でも「とある星の孤独な科学者」役なので、最初に『オデッセイ』の予告編を見て「まさかスピンオフ……?」と思ってしまった。
 調査チームのメンバーでマイケル・ペーニャが出演していて得した気分に。『アントマン』での「気さくないいヤツ」キャラの好感度が高くて顔を覚えた。

小説が原作


 著者はアンディ・ウィアー。『火星の人』というタイトルで早川SF文庫として刊行されている。別世界に降り立って(本来そこでは異端とされる)特殊技能で活躍する図式が、日本の投稿サイト「小説家になろう」では定番の異世界転生ジャンルと共通している……という意見をいくつか読んだ。それから『火星の人』も元はウェブで公開された小説だと知って驚いた。

関連作品


 『オデッセイ』が長期スパンの生存計画なのに対して、『ゼロ・グラビティ』は一手のミスが死につながるスリリングな展開。宇宙空間に放り出されたら最後、何もできずに「考えるのをやめ」るしかない恐怖が伝わってくる。*3軽口を叩く相棒、ジョージ・クルーニーの役所が好き。
 『オデッセイ』で最初に火星で目を覚ましたあとに、腹部から出ているワイヤーを切断するカットがある。それを「へその尾を切る」行為の見立て、即ち「もう一度産まれる」メタファーとして受け取ったのだけど、この解釈はおそらく『ゼロ・グラビティ』に影響されている。


 人類が月へ行くには、そしてもちろん地球に戻ってくるには、どんな仕組みが必要なのかを解説。読者に対する疑問の持たせ方の誘導がうまく、当時の開発者の試作過程を追っていく流れも判りやすい。特に星の重力についての図解が役立つだろう(余談だが、あさりよしとおの描く矢印には味があると思っている)。月面着陸の時代といえば米ソ冷戦、ロケットとミサイルは技術的には共通しているという話は今でもタイムリーだ。
 タイトルに「II」と入っているが、この巻だけで独立したエピソードになっているためいきなり読んでOK。

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*1:ちなみに地球から月までの距離は38万km。地球をぐるりと1周すると4万kmなので、世界9周半と考えるとそう遠くないようにも感じる。

*2:ちなみに、ポスターに使われたコピーが日本では「70億人が彼の還りを待っている。」だが、アメリカでは「BRING HIM HOME」

*3:いやカーズと違っていつかは死ねるけれども

コミティア115で入手した本

 1月31日に開催された、自主制作漫画誌展示即売会「COMITIA115」で入手した本を記録しておく。
 【書式】 著者名(サークル名)『書名』 ※サークル配置番号順

  • エビ桃(もちほっぺ堂)『ココノツ』
  • 桐沢一三(キノコ灯)『ここはサイハテではない』
  • こめつぶ(スタントマンズ)『人間火球対人間師団 Part2』
  • イカタ(マイカタ工業)『ケモ女子ひみつ会議 冬』
  • イカタ ほか(マイカタ工業)『ぽちゃいち 2015WINTER』
  • イカタ・時田(自己責任ユッケ)『あがなうおにく』
  • 腋汗・猫峰四葉(キセガワ上流)『GODTAC115』
  • りふぁ・いなやまふみたか(小僧んとこ)『プロジェクトマネージャ候補 カワイイ後輩の育て方 the Comic』
  • ホシノテラダ・ジョニィ・にーなな(かたておち)『活動』
  • 随時(魚群)『黒猫』
  • 斉所(粉骨堂)『calm 高2の夏の話』
  • 斉所 ほか(粉骨堂)『コミックLR』
  • 肋骨凹介(肋屋)『やさしさ』
  • payjama(payjama)『My Martini EP』
  • 三島芳治(つゆくさ)『化物語
  • 山像樹(咆哮剤)『人之書』
  • 模造クリスタル(模造クリスタル)『ゲーム部10 アンダーウォーター』
  • ん(こんにちはーズ)『LILIY AND BAT 〜百合とバット〜』
  • サークル「つゆくさ」のスペースにて頒布
  • 今回のイベントの新刊ではないもの
    • 永山薫 編集(マンガ論争取材チーム)『マンガ論争14』
    • やごさん(前途洋洋だ会)『2015年創刊誌&休刊誌レビュー簡易版』
    • 鈴木小波(パコキリン)『感覚で描くパースと魚眼パースの本』
    • 土岐つばめ(はいあかむらさき)『東京発9時32分かがやき507号金沢行き』